2017  KAKUSHÔ   L’art Spatio-Temporel de la Calligraphie

 ― 書による時間的空間的芸術  ―


大阪出身の書道家・KAKUSHO氏は、幼少より40年以上にわたり漢字の古典を学び研鑽を積む「紙と筆と墨の芸術」といわれる「書」。言語を伝達する手段でありながら、その文字の持つ意味や感情を表現することができる文字の芸術でもあります。

日本における書は、中国から伝わった「漢字」と日本で発明された「仮名文字」が混在し、より美しく芸術性に富んだアートとして独自の発展を遂げています。、古代文字や象形文字など世界の文字文化の造形美に着目。それらの研究とその成果として書の創作に取り組んできました。KAKUSHO氏の文字芸術への取り組みは、古典を基礎としながらも「時間」と「空間」という観点から書の本質を見つめ直し再構築するというもの。国内外で高く評価されるKAKUSHO氏の書芸術は広く世界中から招待を受け、数多くの展覧会が開催されています。


2017年10月10日~15日、6日間の会期でフランスのストラスブールにおいて『書による時間的空間的芸術』と題したKAKUSHO氏の展覧会が開催されました。会場は、ストラスブール市で最も広大なオランジェリー公園に建つジョゼフィーヌ・パビリオン。ナポレオンの妻・ジョゼフィーヌに捧げられたという美しい建物です。


国内外で活動するKAKUSHO氏ですが、海外での活動の中心となっているのはフランスです。フランスは芸術文化への理解深い土壌があり、オリエンタル文化、とりわけ日本文化への関心が高い国でもあることから、KAKUSHO氏はかねてより文字芸術を軸とした数々の文化交流をフランス各地で行ってきました。こうした活動がきっかけとなってストラスブール領事館からの招きを受け、この展覧会が開催されたのです。


オープニングパーティーは、在ストラスブール日本領事をはじめルクセンブルグ領事、ペルー領事ら政府関係者も多数出席して華やかに開催されました。パーティーは飲み物片手になごやかな雰囲気で進み、出席者はKAKUSHO氏を囲み次々に質問を投げかけ、氏の文字芸術の創作活動に大きな関心と理解を示しました。


時間や空間をも内包する芸術表現「書」

本展のタイトルとなっている『書による時間的空間的芸術』は、KAKUSHO氏の理念でもあります。KAKUSHO氏が考える「書」とは、平面上の表現にとどまらず時間や空間を内包する立体的な表現である、というもの。墨が紙に染み込む時、その濃淡や強弱によって奥行きが生まれます。KAKUSHO氏は、その奥行きを三次元的に再構成し空間として表現しようと試みます。紙の上の表現だけでなく、アクリルやステンレスなどの素材も採用し、レーザー加工などの技術も取り入れた立体作品も創り出しています。

KAKUSHO氏は「筆を動かす」という時間の流れにも目を留めました。紙に筆をおいて、思いのまま筆を運び、そして筆を止める。そこには書き手の「呼吸」や「間」があり、確かに「時間の流れ」が存在します。ひとつの文字から時間と空間を感じ取れる、それがKAKUSHO氏の文字芸術となっているのです。


線の重なり、強弱、濃淡で空間や時間の流れを表現

展覧会場には、文字芸術を独自の切り口から創出したKAKUSHO氏の平面作品・立体作品あわせて25点が展示されました。まず目を引くのは、会場中央の4本の柱の上に置かれた4つの立体作品。数枚のアクリル板の上に文字を一度分解してバラバラに記し、そのアクリル板を等間隔に重ね組み合わせることで文字を再構成しています。透明なアクリル板によって線の重なりが立体的に視覚化され、文字の持つ空間的要素が表現されています。

また壁際をぐるりと囲んだ平面作品に目を移すと、紙いっぱいに踊るように跳ね、止まり、流れるように走る線。太く、細く、濃く、薄く運ばれる筆跡は、文字の奥行きを表すとともに、筆致の緩急、強弱、濃淡をたどっていくと、時間の流れを感じ取ることができるようになっています。書の生み出すリズムは、まるで音楽を観ているかのようです。


日本文化研究者から一般市民まで幅広い層が来場


展覧会には、ストラスブール市の幹部や総領事、領事、大学関係者をはじめ学生から一般の市民まで多くの人々が来場し、日本の文字文化が持つ芸術性に触れる素晴らしい機会となりました。書の魅力を体験する「書道体験ワークショップ」も無料で開催し、文化交流にもしっかりと寄与したのです。


また本展にあわせ、10月12日にはストラスブール大学からの要請で「日本の書芸術について」と題した講演会を開催。日本文化に興味を持つ学生や教授ら200名以上が参加し、会場は大盛況となりました。KAKUSHO氏は、日本の書の歴史や文字文化を通して日本人が持つ精神性、美意識について講演。講演を興味深く聴いた参加者からは多くの質問が寄せられ、熱気に包まれた講演会となりました。


KAKUSHO氏による『書による時間的空間的芸術』展は、ストラスブール市民の憩いの場であるオランジェリー公園が会場となったことで数多くの市民が来場。日本の文字芸術に触れる機会を提供しました。展覧会は、作品を鑑賞し講演を聴いた日本文化を研究する専門家や学生たちの熱意にあふれたイベントとなり、その成果を世界に示すこととなりました。